1)0.0 / 0.05 / 0.5 %の“定義戦争”が市場設計を左右する
ここで言う「定義戦争」とは、
ノンアルコール飲料を名乗れるアルコール度数(ABV)と表示用語を、
どこに線引きするかを巡る、規制・業界・消費者認識の
現在進行形のせめぎ合いを指しています。
米国では、ビール等のモルト飲料について、
- non-alcoholic beer = ABV 0.5%未満
- その場合「Contains less than 0.5% alcohol by volume」という表示が必須
と、連邦レベルで明確に定められています
米国の考え方は実務的です。
- 発酵飲料において「完全な0.0」を恒常的に保証するのは技術的に難しい
- 微量アルコールは発酵由来の不可避成分として扱う
- 消費者には数値で正直に開示する
つまり、製造現実を前提にした定義です。
一方で、英国は少し違います。
英国政府(DHSC)のガイダンスでは、
- alcohol-free:0.05%以下
- low alcohol:1.2%以下
という区分が示されています。
ここで重要なのは、これは「法律」ではなく「ガイダンス」であること。
ただし、小売・メーカー・外食は事実上これに従っているという点です。
英国の背景には、
- 未成年保護
- 妊娠中の飲用配慮
- 「alcohol-free」という言葉に対する消費者期待の高さ
があります。
米国と英国という2国だけを挙げても、
定義の中で実に10倍以上の差があるとは驚きですね。

2)定義が変わると何が変わるのか
定義が変わることによって、プレイヤーたちの何が変わり、問題が生じるのか。
大きく3つの変化があると言われています。
一つ目、「製造技術とコストが変わる」
事実として、
- 0.5%未満設計
→ 発酵制御で対応可能なケースが多い:作るのが簡単(費用が安価)
- 0.05%以下、まして0.0%設計
→ 脱アルコール工程(真空蒸留・膜処理等)がほぼ必須:作るのが難しい(費用が高価)
脱アルコール工程は「設備投資が高額」「香味成分の損失リスクが高い」「再調整コストがかかる」
という特徴があります。
この点は、欧州大手ビールメーカーが脱アルコール設備に多額の投資を行っている事実からも裏付けられます。
例:Heineken の投資言及
二つ目、「味の再現性と商品タイプが変わる」
上記の製造上の特性を踏まえたときに、
0.5%未満を許容するということは、 「本物にかなり近い味」が作りやすい
0.0%を厳密に要求すると、味の再現よりも「別物としての設計」になりやすい
結果として、
米国・欧州の一部:「これはビールだ」「これはワインだ」という語りが成立
0.0%厳格市場 :「ビールテイスト」「ワイン風」になりやすい
という差が生まれます。
そして三つ目、「価格帯と参入プレイヤーが変わる」
製造方法が固定化された場合に起こることはもちろん、
エントリーできるプレイヤーの選別になる訳です。
高コスト設備が必要→ 大手メーカーが有利
設計自由度が高い→ クラフト・小規模参入が可能
つまり定義は、大企業向け市場になるのか
クラフトやスタートアップが参入できる市場になるのかを左右します。
こうなってくると、各方面は自分たちのマーケットに有利になるように、
未成熟な市場に我先にと手を出し、口を出してきます。
規制当局は未成年や妊婦、アルコール依存症などの消費者保護と誤認防止。
大手メーカーは国際展開しやすいように、統一基準を求めます。
逆にスタートアップのクラフトマンたちは参入しやすい、規制の緩い定義を求めます。
この問題は今も決着は付いておらず、議論の最中ということです。
長くなりそうなので今回はここまで。
次回、このタイムラインをもう少し整理しながら市場を見てみたいと思います。
