「地味」な品種が主役になる夜。ピノ・グリとカベルネ・フランの深い話
皆さま、こんにちは。 さて、3月7日の角打ち。今回はいつもと少し視点を変えて、知れば知るほどその奥行きに驚かされる「玄人好み」な二つの品種を掘り下げてみたいと思います。
主役は「ピノ・グリ」と「カベルネ・フラン」。 普段はブレンドの脇役に回ることも多い彼らですが、実は造り手の個性が一番ストレートに表れて、ハマると抜け出せない魅力があるんです。

1. 「灰色」のブドウが映す、産地の体温
今回の白ワインの主役はピノ・グリ。フランス語で「Gris グリ=灰色」の意味です。
完熟すると皮が薄い藤色になることからこの名前がつきましたが、実はこれ、赤ワインの王様「ピノ・ノワール」が突然変異して生まれたもの。
ピノ・ファミリーは面白いことに、ノワール(黒)、グリ(灰色)、ブラン(白)と、同じDNAを持ちながら皮の色だけが違う「兄弟」のような関係なんです。
フランス語の「ピヌ(松ぼっくり)」が語源と言われるほど、ぎゅっと身が詰まった房から生まれるワインは、白らしいキレと赤に近いコクを併せ持っています。
アルザスの異才シュレールが手がける、野生酵母の旨みが溢れるような一杯から、北海道・三笠の山崎ワイナリーさんが家族5人の「指紋」をラベルに刻み、樽でゆったり寝かせた端正な一杯まで。
同じ品種でも、これほど表情が違うのかと驚かれるはずです。そこに共通しているのは、造り手がブドウの力を信じて「余計なことをしない」という、クラフトマンシップです。
2. 「カベルネの父」と、伝統的な呼び名「ブシェ」
赤ワインの主役はカベルネ・フラン。 ワイン好きの方にはお馴染みの話かもしれませんが、あのカベルネ・ソーヴィニヨンの「親」にあたる品種です。
この「親」品種、実は産地による個性の違いが最も激しいブドウの一つ。
今回はロワール地方から、あえて対照的な二つの顔をセレクトしました。
古くからこの地で愛されてきたフランは、フランス文学にも登場するほど歴史が深く、なかでも「シノン」は、その上品な酸と鉛筆の芯のような香りがワイン通を唸らせる「玄人好み」な産地として知られています。
名手ボードリーが手がける正統派シノンの、背筋が伸びるような気品。
一方で、同じロワールでもトビー・ベインブリッジが造るような、果実のピュアさをそのままボトルに詰めたスルスルいける「ヴァン・ド・ソワフ」。この両極端な楽しさを同時に味わえるのが、今回の面白いところです。

対して、ボルドーの右岸ではこの品種を古くから親しみを込めて「ブシェ(Bouchet)」と呼びます。
今回お出しする「シャトー・グラン・ヴィラージュ」を造るのは、あの名門ラフルール家。彼らはどこにでもある苗木ではなく、自分たちの畑で何世紀も守ってきた特別な「ブシェ」の家系を、今も宝物のように大切にしています。
一方で、理想のブドウを求めてあえて拠点の大阪を飛び出し、信州・塩尻の素材で勝負した「河内ワイン」さんの新しい試みも面白い。伝統を守る道と、新しい素材を探す道。どちらも、品種への深い愛情が詰まっています。
3. 喉を潤す喜び。今夜のグラスは?
難しい理屈は抜きにして、まずは一口。
ロワールの歴史に思いを馳せるもよし、イタリアの厳しい自然の中で丁寧に造られた一杯に浸るもよし。造り手の丁寧な仕事が、体に染み込む感覚を楽しんでいただければ幸いです。
いつものお気に入りも良いけれど、たまには新しい品種の扉を叩いてみる。
天王町のカウンターで、ちょっとした新しい発見があれば嬉しいです。 皆さまのエントリー、お待ちしております。

