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【25/8/8 掲載】多様性の時代におけるマニュアル作成の難しさ

「マニュアルなんてあっても意味ないんだよね」
先日、あるクライアントから唐突にこう言われました。

 

「うちはマニュアル通りの人間なんて要らないしね」

 

そう続ける店主のお店は、半年前からワンオペ営業。

 

春に最後の大学生のバイトくんが卒業して以来、
ネットや貼り紙で募集はかけていても目ぼしい応募はありません。

 

運良く新しいアルバイトが入ってきても、
店長兼オーナーの彼に仕事を教える余裕があるようには思えません。

でも、マニュアルを作る余裕もない。

 

何をしたらいいか分からない新人さんは、お客さんと店長のプレッシャーに怯えながら、
大してたまっていない皿洗いをひたすら続けるうちに、何も言わずに来なくなる…。

 

これは、いま急増している飲食オペレーションデフレの典型パターンです。

 


マニュアルは何のためにあるのか

 

そもそもマニュアルは、経営者や店舗管理者がスタッフトレーニングを行いやすくするためのものです。
同時に、スタッフが業務内容を覚えるためのガイドブックでもあります。

 

現場で一人ひとりが手探りでやっていたことを、共通のやり方に落とし込むことで、
教育の時間も短縮でき、全体の時間効率も上がります。

 

さらに、マニュアルは作業的な部分を自動化するような役割も持っています。

考えなくても自然とできる状態にしておくことで、
臨機応変な判断が求められる場面に、頭と体を回せる余力が生まれます。

 

だからこそ、マニュアル通りにできるようになった段階は、評価のスタートライン。
言い換えれば、そこは±0地点なのです。

 

「多様性」という厄介者

しかし今、「多様性」というキーワードが、マニュアルをますます難しくしているようです。


年齢、性別、国籍、ライフスタイル、働き方、価値観──

背景の異なる人材が同じ現場に立つことが日常になりました。

 

それ自体は素晴らしいことですが、
「誰にでも分かりやすく」「誰にも配慮して」作ろうとすると、
マニュアルの中身がどんどん抽象的になっていく。

結果として、読み手にとって「何をどうしたらいいのか」が伝わりづらくなるのです。


また、多様性を理由に、指導や基準の共有がしにくくなっている現場もあります。

「その言い方はハラスメントでは?」「そこまで求めるのはブラックでは?」という指摘を恐れて、
曖昧なルールのまま放置されることもある。

 

すると、何となく周りを見ながら「察して動く」ことが求められるようになり、
結局は経験値がモノを言う属人的な現場に戻ってしまいます。

 

本来、多様性とは「違いを認めながらも、同じ目的に向かって協働する」ことですよね。

共通のゴールがあるからこそ、マニュアルという共通言語が意味を持つのです。

 


多様性って何だっけ?

 

繰り返しになりますが、

年齢、性別、国籍、肌の色、ライフスタイルや価値観の違いなどで、不当な扱いを受けずに認め合うこと。
それが多様性の本来の意味じゃないかと思うんです。

決して「みんなが好き勝手やっていい」ということではありません。


しかし現実には、その線引きや注意がしづらい空気も感じますよね。

 

背景には、人材不足と短期雇用の増加、
そして「雇ってあげている/働いてあげている」という双方の感覚のズレがあります。

 

雇用契約を結んだ時点で、スタッフは業務内容をいち早く覚え、職務を全うするというモチベーションを持っていることを雇用側は期待したいところですが、
それを後押しする仕組みが欠けている職場は少なくないように感じます。

 

やっと入ってくれたスタッフを大事にしすぎるあまり、
言いたいこと言えなくなってしまっている現状、泥沼です。

 


マニュアルって何のためにあるんだっけ?


ここでまた、マニュアルの機能の話に戻るんですが、
「スタッフが業務内容を覚えるためのガイドブック」ということは、


うちのお店に入ったら、このガイドブックをちゃんと習得してね。評価はまずそこからね。

と言えれば、パワハラも多様性も関係ない、
感情を挟まない定量的な関係性になれるんじゃないかというのが仮説です。

 

そうすると、マニュアルはガイドブックであり、ルールブックにもなり得る訳で、

そうすると雇用者と被雇用者以外の第三者的な立ち位置(これを私は「神棚」と呼んでいます)に設定できることになります。

 

このプロトコル的なアプローチは様々な組織論でも書かれていますが、非常に有効なようです。

 

人同士の争いは相互の認識や考え方の相違から生まれますが、

絶対的な第三者を置くことで、そこに上下関係はなく、どの立場同士であっても平等に争いごとをジャッジできるからです。

 


読まれないマニュアルの共通点

 

そもそも論で、マニュアルの内容が抽象的すぎたり、現実と乖離していたり、理想論ばかりで埋まっていると、人は見ません。

 

あまりにも当たり前のことばかりを伝えようとしていても同じです。

つまり、機能していないマニュアルには“見る気にさせる工夫”が不足しているという側面もあるかもしれません。

 

クライアントの「マニュアルなんて意味ない派」が増えている一方で、Z世代のアルバイトからは「ちゃんと作ってほしい」という声があるのは、まさにここがポイントかもしれません。

 

実態を掴んでいて、かつユーザー(=スタッフ)にとって伝わるコンテンツとしてのマニュアルづくり。


多様性のせいにしてないで、ちゃんとそこに向き合ってますか?

 


では、どう作るか

 

結局のところ、「マニュアルなんて意味がない」と言われるのは、そう思われるようなものを作ってしまったからです。
それを「現場の問題」や「人材の問題」と片付けても、何も変わりません。

求められているのは、”神棚になり得るマニュアル” 且つ “見たくなるマニュアル”です。

 

説得力があり、面白くて、テンポがよくて、気づけば頭に残っている。
忘れてはならないのは、使う人への愛情や思いやりです。


忙しい中でも迷わず動けるように、余計な不安を抱かせないように、少し先回りして道を照らす。


そんな真心を込めた設計は、不思議なほど素直に受け入れられ、ちゃんと使われます。

 

今のマニュアルが読まれないのは、相手のせいではありません。
中間世代の脱マニュアル信仰が、過度に業務の言語化を排除してしまったように思います。

現場で本当に必要とされる形や見せ方、そして読む人への温度が足りなかっただけなのです。


今、人手不足に喘ぐ業界にこそ、目の前の人に手を差し伸べるような「令和版のマニュアル」が必要とされているのかもしれません。

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