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【25/5/29掲載】飲食店の“厳しさ”はもう通用しない?パワハラの時代を超える指導のかたち

かつての飲食店では、厳しさこそが人を育てると信じられてきました。

怒鳴られる、叱られる、理不尽を経験する──。
そうした“現場の洗礼”を乗り越えて一人前になる、という文化が根強く残っていたのは事実です。

 

しかし今、その“厳しさ”は、若者を育てるどころか、
職場から遠ざけてしまう要因になっています。

2020年に施行された「パワハラ防止法」により、
職場における言動が法律のもとで厳しく問われるようになったことは、
飲食業界にとっても大きな転換点となりました。

本記事では、パワハラの実態や法的な枠組み、そして「厳しさ」と「指導」の境界線について考察しながら、
これからの時代にふさわしい“導くリーダーシップ”とは何かを掘り下げていきます。

 


1.飲食業界における“パワハラ”の実態

飲食店の現場には、かつて「これくらい当たり前」という“空気”が蔓延していました。

営業中の怒号、ミスへの罵倒、ミーティングでの公開処刑のような叱責──。
これらは、「技術やプロ意識を叩き込む」ための手段とされてきたのです。


ですが、今その空気が変わろうとしています。

2020年に施行された「パワハラ防止法」では、
次のような行為が職場でのパワーハラスメントとして定義されています。

 

  • 優越的な関係に基づいて
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えて
  • 労働者の就業環境を害する行為

 

たとえば、「人格を否定する発言」「繰り返される叱責」「感情的な怒りをぶつける行為」は、
まさにその対象になります。

特に2022年4月からは中小企業もこの法律の対象となったことで、
飲食店も例外ではいられなくなりました。


現場では、「注意したいけど、どこまでがOKなのかわからない」
という戸惑いの声も多く聞かれます。

そうした戸惑いから、指導を控え、
結果的に若手の育成を放棄してしまうケースも少なくありません。

 


2.「厳しさ」と「パワハラ」の境界線

「指導しただけなのに、パワハラと受け取られてしまった」。

そんな嘆きが現場で聞かれるのは、
指導とハラスメントの境界があいまいなまま放置されてきたからかもしれません。


ここで改めて思い出したいのが、山本五十六の有名な言葉です。

「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ。」

この言葉が示すのは、指導は一方通行ではなく、段階的に“導く”ものだということです。


感情で一喝するのではなく、プロセスと合意をもって伝えること。
これが、今の時代に求められるリーダーの姿勢です。

 

指導のステップ:感情ではなくプロセスで伝える
  1. やって見せる
     まずは自分で実演してみせる。模範の提示なくして理解は生まれません。
  2. 言葉で説明する
     なぜそうするのか、何に注意すべきかを、相手の理解度に合わせて伝える。
  3. やらせてみる
     本人にトライさせる。ミスが出ても即否定せず、観察する。
  4. フィードバックする
     行動に対して具体的に振り返りを行う。頭ごなしではなく、修正点を明確に。
  5. 成果を認め、承認する
     小さな進歩も言葉にして評価する。これが継続と定着を促します。

 

ゴールを“共有”しておくという視点

指導の場でありがちなすれ違いは、「教える側」と「教わる側」で“ゴールのイメージがずれている”ことです。

「この業務を自立して回せるようになる」

「この盛り付けを5分以内に仕上げられるようになる」

──このように何を達成とするかを事前に合意しておくだけで、指導はずっとスムーズになります。

 

叱責や指摘が必要な場面があったとしても、ゴールを共有していれば、相手も「成長の一部」として受け取りやすくなります。

 


3.指導する側が抱えるストレスと現実

「伝え方を変える」——。

その必要性は理解していても、実際にやるとなると、これは容易なことではありません。


特に現場のリーダーや中間管理職にとって、
それは自分の価値観を見直す作業であり、大きなストレスを伴います。


たとえばこれまで、自分が怒鳴られながら育ってきた人ほど、
優しく丁寧に伝えることに違和感やもどかしさを感じるものです。

「そこまでして教える必要があるのか?」「何も言わずに動ける人間だけで構成できたらいいのに」

──そんな本音が頭をよぎることもあるでしょう。

 

こうしたストレスが積み重なると、リーダー層が疲弊していきます。

結果、「責任を負いたくない」「人を育てることに意味を感じない」と感じる人が増え、
マネージャーの担い手そのものが不足する事態に陥ります。

この現象は、単なる「やる気の問題」ではなく、構造的な負荷の問題です。

 

現場に起きている“見えない連鎖”

 

  • リーダー職に過剰な期待がかかる
  • 指導がうまくいかず、部下との関係が悪化する
  • 評価が下がる、疲れる、辞めたくなる
  • 結果、指導の担い手が消える
  • 育成の文化が消える
  • 若者が定着せず、また育たない


このような悪循環が静かに、しかし確実に進んでいる店舗は少なくありません。


本当に求められるのは、「叱れるリーダー」でも、「褒めるのが上手い人」でもありません。
それは、事業の方向性を共有しながら、どうすれば人が育つかを一緒に考えられる存在です。


指導とは、個人の能力に頼るのではなく、チームや事業としての「育成の仕組み」を整えること。
その発想の転換が、現場の負荷を減らし、未来の担い手を生み出す鍵になります。

 


4.指導される側の心構え

飲食業界の指導が「厳しすぎる」「理不尽だ」と感じる若手の声は少なくありません。

確かに、旧態依然とした怒鳴る文化が残る現場があることも事実です。


しかしその一方で、「伝えようとしてくれている言葉」を、
すべて攻撃と受け取ってしまう若手も増えている印象があります。

このセクションでは、指導される側が持つべき“受け止め方”の視点について考えていきます。

 

  • 「怒られないこと」を目標にしていないか?

職場において、怒られないように立ち回る──それが目的になってしまうと、成長は止まります。

本来、指導とは「失敗をもとに学ぶ」ためのもの。


にもかかわらず、「失敗しないこと」に意識が向きすぎてしまうと、
行動が萎縮し、経験値が積み上がりません。


指摘を受けたら、まずは防御ではなく要素に分解してみること。

「言い方がきつかった」ではなく、

「どこを直せばよかったのか」「なぜそれが求められたのか」に焦点を移すことが大切です。

 

  • 自分を否定されたのではなく、行動を修正されたのだと考える

「なんでこんなこともできないの?」

「そうじゃなくて、こう!」

たとえ言い方がぶっきらぼうでも、それがあなたの行動や技術に対して向けられているならば、そこに改善のヒントがあります。

「自分が否定された」と捉えると、心は閉じます。

「この仕事の精度を上げたいから言ってくれている」と捉えられれば、言葉は学びに変わります。

 

  • 「この人は自分を育てようとしているか?」という目線を持つ

職場の人間関係において、100%理想の上司に出会えるとは限りません。

ただ、その中でも「この人は、自分に時間をかけてくれているか?」「放っておかずに関わろうとしてくれているか?」という視点を持つことで、見え方が変わってきます。

 

本気で指導するには、時間も手間も、エネルギーもかかります。

それをしてくれる人がいるのだとしたら、それはひとつの信頼の証です。

 

  • 指導を“楽しむ”という発想

仕事を覚える段階は、できないことばかりで当然です。

だからこそ、その不安やミスを「指導してもらえる楽しさ」に変換できたら、職場での学びは一気に加速します。

小さな「できた!」を積み重ねていくなかで、

「自分は成長している」と実感できることこそが、もっとも強いモチベーションになるのではないでしょうか。

 


5. 健全な職場が育てる、健全な仕事観

パワハラをなくすには、ただ厳しさを排除するだけでは不十分です。
一方で、優しさや配慮だけでも、現場はうまく回りません。

本当に必要なのは、「成果が出せる」と同時に「安心して働ける」環境です。

その鍵となるのが、近年注目されている「心理的安全性」です。

 

  • 成果と安心の両立が、強いチームをつくる

心理的安全性とは、「ここでなら失敗しても責められない」「自分の意見を言っても否定されない」と感じられる状態を指します。

これは、単なる「甘やかし」ではなく、挑戦と成長を支えるための土壌です。

 

現場が求めるのは「成果」。
一方で、人が求めているのは「安心」。

この二つが両立してはじめて、スタッフは自律的に動き出します。

 

  • ミスをしても、振り返って改善する機会がある
  • 指導の言葉に、納得できる目的や理由がある
  • チーム全体が、「育つこと」に価値を感じている

 

こうした空気感が、心理的安全性のある職場を形づくります。

 

  • 店長やリーダーが担う「文化のデザイン」

文化は、自然発生するものではありません。

日々の関わり方、言葉の選び方、ルールの設計によって“意図してつくる”ものです。

 

  • ミスを責めるのではなく、システムで支える
  • 叱るときは、一貫した基準で行う
  • 指導の質を、個人ではなくチームで保つ

 

こうした“仕組みの設計”にこそ、リーダーの役割があります。

リーダーとは、単に指導する人ではなく、心理的安全性を基盤とした文化をつくる人なのです。

 

  • 働くことは、自己肯定感を育てる営みである

飲食の仕事には、誰かの喜びに直結する瞬間があります。

「ありがとう」「美味しかった」「また来るね」

こうした言葉を、自分の力で引き出せたとき、人は自分の仕事に価値を見いだします。


そのためにも、スタッフが健全な心身で働ける環境が必要です。
そして、「心理的に安全な指導文化」こそが、その土台となります。

 


まとめ:ビジョンを共有し、導くということ

飲食業の現場における「指導」は、単に仕事を教えることではありません。

それは、目の前のスタッフとどんな店をつくりたいのか、そのビジョンを共有しながら、同じ方向へ歩んでいくための営みです。


指導とは命令ではなく、誘導でもなく、伴走です。
その過程では、ときに意見がぶつかることもあれば、思うように伝わらないこともあるでしょう。

それでも、「なぜこの仕事をするのか」「この店が目指しているものは何か」という原点を共有できていれば、言葉の温度は伝わります。


パワハラが問題になる背景には、伝え方の問題だけでなく、
伝える目的が見えなくなっている現場の疲弊があります。

だからこそ、今あらためて必要なのは「伝える技術」よりも、
「何を目指すか」を共に見据える姿勢です。

 

  • 誰かを指導するとき、自分はその人に何を託したいのか。
  • 誰かに指導を受けるとき、自分は何を受け取りたいのか。

 


そうした問いを、現場の中で互いに持てる関係が、健全な職場の基盤になります。


正しい方向に導くこと。

安心して育てること。

自分の成長に誇りを持てるようになること。

これらすべては、ビジョンを共有するところから始まります。


昨今のハラスメントやSNS炎上のニュースを見るたびに、
日本人同士が足を引っ張り合っているような姿がとても悲しく、残念に思います。

優しさと思いやりをもって、お互いを許し合う。そんな関係が当たり前にある社会を目指しましょう。

 

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