「SNSもがんばってるし、口コミも悪くないのに、なぜかお客さまが増えない」
「どこに投資すれば、売上につながるのかが分からない」
そんな悩みを抱える飲食店は少なくありません。
料理の味やサービスに自信があるのに、思ったように集客できない——。
その原因の多くは、「マーケティング=宣伝」と誤解されていることにあります。
飲食店にとってのマーケティングとは、単なる広告や割引ではなく、
「お客さまが来店するまでの流れ」を、意図的に設計することです。
本コラムでは、数字や仕組みに苦手意識のある方でも実践できるように、
マーケティングの考え方を「料理と同じように“設計する」という視点でお届けします。
1. 「お客さんが来ない」の本当の理由
「うちは味には自信があるんだけどなあ」
「インスタも週に何回か投稿してるのに…」
——それでも思うようにお客さまが来ない。その理由を“努力不足”にしてしまうのは、もったいないことです。
本当に多くのお店が、実は「マーケティングの構造」ではなく「根性と勘」に頼って動いています。
でも、集客がうまくいかない原因の多くは、「お客さまが来られる状態にない」という“見えない構造”にあります。
たとえば、こんな例があります。
- Googleマップの営業時間が間違っていた(→来るつもりだった人が来られない)
- SNSに定休日や価格帯が書かれていない(→不安で来店をやめる)
- メニューやお店の魅力が“よくある店”の中に埋もれてしまっている(→記憶に残らない)
つまり、「料理が美味しいかどうか」の前に、“来店というアクション”が発生する条件が揃っていないケースが非常に多いのです。
これは、お店の魅力や実力とはまったく別の話です。
どんなに素晴らしい店でも、“見つけてもらえない”“伝わっていない”“行きにくい”状態では、お客さまは動きません。
だからこそ、「うちの魅力を、正しく・効率よく届ける設計」が必要になります。
それこそが、飲食店にとっての“マーケティング”の出発点です。
2. “知られていない”のか、“伝わっていない”のか?
お客さまが来ない理由は、大きく分けて二つあります。
「そもそも知られていない」か、あるいは「知ってはいるけど、行く理由がない」か。
この違いを意識してマーケティングを設計しているお店は、実はあまり多くありません。
良くあるケースとしては、、
- 「よく前を通って気にはなってたけど、入りづらくて行ってない」
- 「SNSで見かけたけど、どんな店かよく分からなかった」
- 「あの店ってランチやってるの?夜だけ?」
これはすべて、“知っていたのに来なかった”パターンです。
つまり、「お店の魅力が“伝わっていなかった」ということになります。
一方で、たとえば郊外の立地だったり、新しくできたばかりの店で、“まだ知られていない”だけということもあります。
この場合はまず、“存在を知ってもらう”ためのアクションが必要です。
- Googleマップの登録とMEO対策
- 近隣へのチラシやポスティング
- 店頭で目を引くA看板やのぼり
- 地域系メディアや口コミ投稿の依頼
このように、「知られていない状態」なのか、「伝わっていない状態」なのか。
まずはこの二つを切り分けて考えることで、どんな手段を優先すべきかが見えてきます。
マーケティングの第一歩は、“頑張る”ことではなく、“今の課題がどこにあるか”を見極めることなのです。
3. 集客は「流入 × 価値 × 導線」で考える
飲食店の集客は、単に「人を呼び込む」ことではありません。
正確に言えば、それは「お客さまが自然に来店したくなる流れを設計すること」です。
その流れは、大きく3つの要素に分解できます。
1. 流入(見つけてもらう)
まず、お店の存在を知ってもらわなければ始まりません。
GoogleマップやSNS、看板、口コミ、チラシなど、お客さまが“知るきっかけ”をどこに用意するかがこのフェーズです。
2. 価値(行く理由をつくる)
次に、「行ってみたい」と思ってもらう理由が必要です。
それは、お得なキャンペーンかもしれませんし、料理のこだわり、雰囲気、接客など、そのお店ならではの魅力がどう伝わっているか、ということです。
「オシャレ」「入りやすそう」「予約しやすい」「ひとりでも行けそう」など、
お客さまの“気持ちのハードル”を下げてあげる工夫が、このステップにあたります。
3. 導線(スムーズに行動できる)
最後に、「じゃあ行こう」と思った時に、行き方・営業時間・空席状況などがスムーズに分かる状態であることが大切です。
ここでつまずくと、せっかく価値を感じてもらっても、離脱されてしまいます。
↓↓↓↓↓↓↓
この3つを掛け合わせたものが、「今、来てくれるお客さまの数」です。
つまり、
流入 × 価値 × 導線 = 集客力
この公式を頭に入れておくと、
「うち、今“価値”は伝わってるけど“導線”が弱いかもな」など、改善ポイントが見えてきます。
なんとなく頑張るのではなく、“仕組み”として整えていくこと。
それが、安定した集客につながっていきます。
4. 飲食店に必要な4つのマーケティングチャネル
マーケティングの目的は、「来店という行動につなげること」です。
そのために、どんな“入り口”をつくっておくべきか。
飲食店にとって特に重要なチャネルは、次の4つです。
1. Googleマップ(=今すぐ行きたい人への入口)
お店を探している多くの人は、Googleマップから行き先を決めています。
「駅名+ジャンル(例:中目黒 イタリアン)」で検索されたときに上位表示されるかどうか。
これはMEO(Map Engine Optimization)と呼ばれる領域です。
- 正しい営業時間と定休日の登録
- 写真や最新メニューの定期更新
- 投稿(新着情報)の活用
- クチコミ対応の丁寧さ
これらを整備しておくだけで、知らないうちに多くの「今すぐ行きたい人」を取りこぼさなくなります。
2. SNS(=関心層と“関係性”を育てる)
InstagramやX(旧Twitter)は、まだ見ぬお客さまとの関係を築く場です。
Googleマップが“探している人”向けなら、SNSは“なんとなく見ている人”向け。
ここでは、売り込みよりも「共感できる世界観づくり」が鍵になります。
- メニュー写真にこだわる
- スタッフの日常を見せる
- 投稿に“らしさ”を持たせる
- ハッシュタグや位置情報で拡散を図る
「推したくなる店」は、SNSの発信から育ちます。
3. 店頭・紙媒体(=地元層の注意をつかむ)
特に商店街や住宅街エリアでは、アナログの強さが根強く残ります。
- 通りがかりで目を引くA看板やメニュー掲示
- ポスティングやチラシによるキャンペーン告知
- 地域系フリーペーパーへの掲載
視認性や第一印象が、ふとした「気になる」を生み、来店につながります。
4. 口コミ(=信頼と再来店を生む)
もっとも強力なのが、やはり口コミです。
とくに“紹介による来店”は、最初から信頼されている状態での来店になります。
- 常連さんとの会話の中で「紹介したくなるきっかけ」をつくる
- SNSで紹介してくれた投稿に必ずリアクションする
- リピーター向けの“隠し特典”などを用意する
口コミは操作できませんが、仕掛けることはできます。
これら4つのチャネルを、「全部やらなきゃ」と思う必要はありません。
大切なのは、自分のお店にとって、どれが最も効果的かを見極めて使い分けることです。
5. 売上につながる情報発信の“型”を持とう
「SNSも投稿してるし、Googleにも登録してある。でも効果が感じられない」
そんな悩みは、多くの飲食店に共通しています。
実は、情報発信の成否は“中身”より“構造”にあることが多いのです。
つまり、「どんな内容を、どんな順番で、誰に向けて出すか」という“型”が整っていないと、伝えたいことが届かないのです。
情報発信の基本構造:3ステップ
① 興味をひく(Attention)
最初の1秒で「気になる」と思わせる。写真、見出し、最初の一文が勝負です。
例:「今日は“裏メニュー”の日」「実は、店主が泣きました」
② 行きたくなる理由をつくる(Desire)
料理のこだわりや店主の想い、期間限定の価値などをシンプルに。
例:「1日10食限定のラムカレー、仕込みに12時間かかってます」
③ 行動につなげる(Action)
「予約はこちら」「今日も18時から営業中!」など、明確な“導線”を設置します。
この3ステップを意識するだけで、情報の“伝わり方”が劇的に変わります。
投稿の種類も「型」を使い分ける
同じような内容を毎日出していても飽きられてしまいます。
いくつかの“型”を使い分けることで、情報にリズムが生まれます。
- 商品紹介型:おすすめ料理や新作、人気メニューの紹介
- ストーリー型:料理の裏話、店主やスタッフのエピソード
- お知らせ型:営業時間、休業、イベント情報など
- お客さま参加型:口コミ紹介、投稿シェア、アンケート
情報発信も、メニューと同じで「構成のバランス」が大切なのです。
毎回完璧な投稿を目指す必要はありません。
大切なのは、「誰に届けたいか」「何をしてほしいか」を決めてから発信すること。
それだけで、売上につながる情報発信の精度が確実に上がっていきます。
6. マーケティングは「お客さまの視点で想像し続ける力」
マーケティングというと、「戦略」や「分析」といった言葉が先に浮かぶかもしれません。
けれども、飲食店にとって本質的なマーケティングとは——
「お客さまの気持ちになって考え続けること」です。
たとえば、こういう問いを自分に投げかけてみてください。
- この写真、知らない人が見て“美味しそう”と感じるだろうか?
- 店名やメニューから、どんな店かイメージできるだろうか?
- 自分が初めてこの店に来たとしたら、入りやすい雰囲気だろうか?
これらはすべて、「自分ではない誰かの視点で想像する力」によって導き出されます。
「良い店」ではなく、「選ばれる店」にする
美味しい料理、心地よい接客、居心地のいい空間。
それだけでも素晴らしいお店ですが、それを「伝わる形に変換する」ことができなければ、知らない人には届きません。
どれだけ誠実に運営していても、気づいてもらえなければ存在していないのと同じ。
だからこそ、“お客さまの目線で見て、感じて、整える”という習慣が、マーケティングの土台になるのです。
「もっと来てほしい」と願う前に、
「どうすれば来たくなるだろう?」と想像してみましょう。
それが、あなたのお店を“選ばれる存在”へと育ててくれます。
まとめ:「伝える力」もまた、お店の味になる
どれだけ美味しい料理をつくっても、どれだけ居心地の良い空間を整えても、
その魅力が伝わらなければ、存在していないのと同じです。
マーケティングとは、ただ人を集めるための宣伝ではありません。
それは、お店の魅力を“見つけてもらい、理解してもらい、来店という行動につなげる”設計のことです。
Googleマップ、SNS、チラシ、口コミ——
手段はさまざまでも、軸になるのは「お客さまの視点で考え続ける力」です。
どのチャネルを使うか、どんな言葉で伝えるか、どの瞬間にアクションを促すか。
それを意図して設計できるお店は、集客に振り回されることがなくなります。
料理を丁寧に仕込むように、
お客さまとの関係も丁寧に仕込んでいく。
それが、飲食店における本当のマーケティングではないでしょうか。