1.はじめに
飲食店の開業準備が進む中で、多くの人がつい軽視してしまうのが「メニュー設計」です。
「得意な料理を出そう」「とりあえず流行っているものを真似しよう」といった曖昧な判断で決めてしまうと、いざオープンしても「売れるけど儲からない」「客数はあるのに利益が出ない」といった落とし穴にはまることも少なくありません。
メニューは、ただ料理を並べるだけのものではなく、お客様の心を動かし、利益を生み出すための設計図です。
どんなメニューを用意するかで、客層の反応はもちろん、
厨房のオペレーション、食材管理、そしてお店全体の利益構造までが決まってきます。
本記事では、飲食店経営におけるメニュー開発と原価管理の考え方を、初心者にもわかりやすく解説します。
さらに、行動経済学の視点から「選ばれるメニューの仕組み」もご紹介。
センスではなく戦略で、しっかり利益を残すメニューづくりを目指しましょう。
2.メニュー開発の基本:売れるメニューはこう作る
飲食店のメニューは、ただ「自分が作れるもの」を並べるだけでは成立しません。
大切なのは、「誰に、何を、どんな価値で届けるのか」という視点をもって設計することです。
まず考えるべきは、ターゲット層のニーズ。
SNSでの反応、競合店のメニュー、レビューサイトなどを通じて、お客様が今どんな料理を求めているのかをリサーチしましょう。
地域によって人気メニューや価格帯は違うため、「このエリアで食べたい料理は何か?」というローカル目線も重要です。
また、近年は「写真映え」もメニュー選びの判断材料のひとつ。
食べたいだけでなく、シェアしたくなる要素があると、お客様が自然と宣伝してくれる強力な武器になります。
とはいえ、なんでも盛り込めばよいわけではありません。
メニュー数が多すぎると選びにくくなり、厨房のオペレーションも複雑化し、
結果としてクオリティや提供スピードの低下につながります。
「これはうちの看板商品だ」と自信を持って言えるメニューを中心に、
目的が異なる数品を補完的に用意し、コンパクトかつ明確なラインナップにすることが大切です。
3.原価管理で利益を守る
売れるメニューを作っても、それが利益につながらなければ経営は安定しません。
飲食店の現場では「人気メニュー=儲かるメニュー」とは限らないのです。
そこで重要になるのが、原価管理という視点です。
参考 | 原価率の計算方法:(原価 ÷ 売価)×100
ex. 仕入れに150円かかったサンドイッチの売価設定 |
まず、飲食店の一般的な原価率の目安は28~35%程度。
もちろん業態によって異なりますが、この範囲を大きく超えると利益が圧迫されます。
たとえば、見栄え重視で高級食材をふんだんに使った一皿が、実は原価率50%を超えていた…というのはよくある話です。
ここで、1日の売上が10万円×25日営業するお店のケースをシミュレーションしてみましょう。
原価率30%であれば、食材などにかかる費用は3万円×25日=75万円。
残りの7万円×25日=175万円(粗利益といいます)から人件費、家賃、水道光熱費、広告費などの固定費を支払うことになります。
これがもし原価率35%になると原価は3万5千円(月87万5千円)。固定費をカバーできる余力が減り、利益は圧迫されます(粗利益162.5万円)。
逆に原価率を28%に抑えられれば、同じ売上でも利益に回せる金額は大きく増えます。
(仕入原価70万円、粗利益180万円)
売上が変わらなくても、原価の設計次第で利益は大きく変動する。
この感覚を掴むことが、飲食経営ではとても大切です。
さらに、原価を考えるうえで見落とされがちなのが「見えないコスト」です。
食材費だけでなく、仕込みにかかる時間、人件費、廃棄ロスなども含めて考えると、
「実際にどれだけ利益が残るのか?」は数字以上に差が出てきます。
また、利益率が高くて回転の良いメニューが1品でもあると、全体の利益構造が安定します。
原価が高くても話題性があるメニューと、原価が抑えられてリピートにつながるメニュー。
このバランスを意識して設計することで、無理なく利益を確保できるようになります。
数字が苦手な方でも、まずは1品ずつざっくりと「仕入れコスト/販売価格」を把握するところから始めてみましょう。
そこから見えてくるのが、自店の「儲かる商品」と「儲からない商品」の違いです。
4.儲かる商品と儲からない商品の違いとは?
儲かっている飲食店のメニューには、いくつかの共通点があります。
それは、単に「おいしい」や「人気がある」というだけではなく、選ばれ方や売り方に“仕掛け”があるということです。
たとえば、同じような料理でも…
– メニュー名に物語性や季節感がある
– 商品の説明文で「おいしさ」より「価値」を伝えている
– 写真を使う位置や順番にメリハリをつけて、視線を誘導している
– 高原価な単品メニューは、セットやドリンクと組み合わせて利益を補完する設計になっている
– 調理工程や提供時間も踏まえて、回転率が下がらないよう工夫されている
つまり、「儲かる商品」とは、商品そのもの+売り方のセットで設計されているものなのです。
そして、こうした商品は自然と“選ばれやすく”なり、かつ“利益が残る構造”になっています。
逆に「儲からない商品」とは、食材や価格ばかりに目が行き、
誰にどう売るかが設計されていない状態。
この差が、売上や経営の安定度に大きく影響します。
このような視点を持ったうえで、次に必要なのは、自店のメニューを冷静に見直してみること。
どの商品が売れていて、利益が出ているのか。
どの商品は人気があっても、実はコストばかりかかっていないか。
ここで役立つのが、メニューごとの売上構成比やFLコストといった数値です。
数値をもとに、構成のバランスを見直し、“儲かるメニュー構成”に育てていきましょう。
5.メニュー構成と価格戦略:選ばせる設計
また、お客様にどのメニューを「選んでもらうか」は、売上と利益を左右する重要なテーマです。
ただ商品を並べるだけではなく、構成の仕方や見せ方によって選ばれ方は大きく変わることがあり、
「行動経済学」という学問の中で研究が進んでおり、
ビジネスの様々な分野で応用されています。
まず意識したいのは「松・竹・梅」の価格構成です。
これは3つの価格帯を提示することで、真ん中(竹)を選ばれやすくする考え方。
人は極端な選択を避ける傾向があるため、最安と最高の間を“無難な選択肢”と捉える心理が働きます。
次に、価格への印象を操作する「アンカリング効果」。
たとえば、最初に3,000円のメニューを提示すると、その後に見る1,800円のメニューが割安に感じられます。
高価格商品を最初に配置することで、他のメニューが“お得”に見える構成です。
また、「おとり商品(非対称優位性)」を使うテクニックもあります。
あえて選ばれにくい商品を並べることで、狙った商品を際立たせるという手法です。
たとえば、似た内容で1,400円のAセットと1,600円のBセットを用意し、1,500円のCセットを中央に置くことで、Cが一番魅力的に見えるように設計することができます。
こうした行動経済学の考え方は、メニュー表の視覚設計にも応用できます。
視線が自然と集まる右上や中央に主力メニューを配置する、
「おすすめ」「人気No.1」などの一言を添える、価格の並びを工夫するなど、選ばれる確率を高めるための小さな工夫が大きな差を生みます。
メニュー構成は、料理そのものと同じくらい戦略的であるべきです。
「どの料理を選ばせるか」を意識することで、利益を支える強いラインナップが育っていきます。
6.まとめと次回予告
メニューは、ただ料理を並べるだけの「一覧表」ではありません。
それはお店のコンセプトを体現し、お客様の選択を導き、利益を生み出す「設計図」です。
売れるメニューには、選ばれやすくなるための理由があります。
料理の魅力、価格の印象、メニューの構成、言葉や写真の使い方――
それらすべてが、計算されて設計されているのです。
そして、原価率やFLコストといった数字の裏側には、必ず“運営のクセ”や“商品の本質”が現れます。
見た目の人気や感覚だけに頼らず、戦略と数字の両面から「儲かる商品」を育てていくことが、
長く続くお店の強さになります。
次回は、そんなお店を支える「スタッフ採用と育成」について。
採用ミスで失敗しないための考え方や、現場で育つチームづくりの基本をお伝えしていきます!